神様との約束
10年ほど前、通勤バスを待つ列に並んでいる時に一人の外国人男性と知り合った。彼が私の落とし物を拾ってくれた事がきっかけだった。
彼は日本で働きながらも本国では牧師さんでもあり、また、仲間と一緒に音楽もやっておられ、その柔和な笑顔には人生を楽しんでいる様子が一瞬で見て取れた。
何度か話すうちに、私はあることを相談してみようと思った。
それは、私が20年も(!)溜め込んでいたことだった。
【目次】
私は幸せと引き換えに神様と約束した
20年前、妹が突然手術をしなければならない事態になった。私はすっかり気が動転してしまった。医学に無知だったし、若かったせいもあり、「どうしよう、どうしよう、助かるんだろうか、どうしよう・・・・!」と一人で焦っていた。
そのころはまだ両親も健在だったし、私よりずっとしっかりしている父が病院側とちゃんと話しているのに、私はなぜか一人で慌てまくってしまった。
私にできることは、そう、祈ることくらいしかない。
そして私は祈った。
どうしても叶えて欲しいなら、自分も大事なことを差し出すしかない、と覚悟して祈ったのだ。
「神様、私の幸せを引き換えに妹を助けてください」
と祈ったのである。
約束のその後
ここだけ聞くと、「なんて心の綺麗なお姉さんなんでしょう・・!」と激しく誤解されてしまうかもしれない。
しかし、私はまったくそんな聖人ではないし、幸せになりたい願望はかなり強かった。
なのにその時は気が動転してそのように祈ったのだ。
蓋を開けてみると、妹の手術はとっても簡単なもの(^◇^;)で、命に別状ないレベルのものだった。1週間の入院でさっさと社会不復帰してしていった。
そこで大きな問題が残されたのは私である。
「あれれ??私、神様と約束しちゃったよ・・・。そして、妹は治っちゃったよ。つまり、神様は約束を守ってくれたってことだよね。じゃあ、私も守らないといけないってことだよね・・・・!!!???」
顔面蒼白である。
「し、しまった・・・・!!」
自分の短絡さ、単純さを呪った。「幸せを引き換えにしたから、私は幸せにはなれないんだ」そう思い、それに縛られるようになった。
そして、私はそのことをを誰にも言えずにいた。きっと、日本人なら「そんなこと気にすることないじゃん」と言われるだけだと思ったし、そう言われても私の気持ちはスッキリしないとわかっていたからだ。
牧師さんに告白してみた
牧師さんだという彼に出会ったので思い切って打ち明けてみた。
それはまるで教会での懺悔のようだった。
彼は神妙な顔をしてしばらく考え込み、真面目な表情で静かにこう言った。
「いいかい?守れない約束を神様としてはいけないよ。そして、約束をしたら守らなければならない。」
・・・はい、そうですよね、ごもっともです・・・(泣)
私はやはり大罪を犯したのだ・・・と凹んだ。
そして彼は続けた。
「でもね、神様は君の幸せを一番に望んでいらっしゃるんだ。君が幸せならない、なれないと思いながら生きていくことは望んでおられないんだよ。だから、幸せになっていくんだ。ただし、これからは軽率に神様と約束をしてはいけないよ。」
・・・!
語り終えた時、彼は優しい笑みを浮かべていた。
神様の真意
約束を超える愛。
私はその壮大さに圧倒された。
「許された」という安堵もあったけれど、神の愛とはそんなにも大きいものなのかと実感させられたのだった。
「そうか、私は幸せになっていいんだー・・・」
肩の力が抜けた。
そして、幸せな気分になった。
その後
数年たって、一連の顛末を妹に話した。もう二人ともいいおばちゃんの年齢になっていた。妹は「ねーちゃん、何やってんの!相変わらずアホだねえ(笑)」と笑い飛ばした。
想定通りである(笑)。
それでいい。
それでいいのだ。
妹の、気持ちいいくらいの笑いい飛ばしぶりに、心に青空が広がるように晴れ晴れとした気分になった。
あれ以降、彼とはぷっつりと会わなくなり、連絡も取れなくなった。もう二度と会うことはないのだろうと思うと不思議である。
こんなことを言うと笑われそうだが、もしかしたら「許されているんだよ」と伝えに来てくれた天使だったのかもしれない、と一人で思っている。
そして、そう思うたびに私は笑顔になる。